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手にしていたチョコレートを口に含み、わずか数センチ先の唇に告げた。
「……僕からの、バレンタインチョコ」
最後の不安は杞憂に終わった。
妹は逃げもせず、どろどろに溶けたチョコレートと僕とを受け入れる。
左手でしなやかな髪を撫でると、甘い舌が扇情的にうねった。
聞こえるのは、濡れた音と熱を帯びた吐息だけ。
ねっとりと柔らかい恋花の中に目一杯舌を差し入れ、彼女がむせて苦笑したところで、それは終わった。
「蓮士にも苦手なことがあるのね」
からかいながら、濃いピンクの舌先で口周りのチョコを舐め取る。
「でも、それを知れたのは気分がいいわ」
上機嫌に、柔らかな肢体を重ねてきた。
そして。
「………………あ」
久しぶりに見る、笑顔を欠いた恋花。
強ばった下顎からはチョコ混じりの唾液が垂れる。
見開かれた目は、もともと大きいせいもあってグロテスクなほどに強調されていた。
「……なに……を……」
グロスの剥げた唇から、わずかに甘酸っぱい香りがした。
ガトーショコラを作っていただけあって、さぞかし食欲を刺激されただろう。
胃酸も、空っぽの胃にたっぷりと出ていたはずだ。
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