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「なら、本命は手作りであるべきと理解してよね。
既製品にはない、私の恋心を混ぜ込むことができるんだから」
「流れ作業で作られた何の感情も込められていないチョコレートの方が、僕は好きだ」
ソファベッドから身を起こし、食器棚からガラスボウルを取り出す。
小さなチョコ菓子が、透明なビニールにくるまれて数粒入っていた。
「それは貰い手の都合でしょ」
至極当然のことを言われて気がついた。
食材や調理器具に混じって、木製テーブルの上には褐色の小瓶が置かれている。
「……ちなみに僕は、バレンタインチョコは食べない主義だ。
恋心と称した、髪の毛や爪や体液が怖いからな」
「たしかに、自分の一部が好きな人に取り込まれるのは悪くないわ。
だけど」
妹は微笑みながら、ボウルの液体チョコレートをすくい上げる。
ヘラからとろとろと垂れ落ちる様は、どこか血に似ていた。
「私、おまじないは信じないタチなの」
「恋花は無神論者だっけ」
チョコ入りのボウルをソファベッドに置き、再度寝転がる。
アームレストに置かれていたガラス瓶のフタを回し開け、近くにあった長いストローを差し込んだ。
いつもとは違い、中に入っているのはただの水だ。
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