あるいは、双極の救済

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「当然でしょ。私、自分より偉い存在がいるなんて耐えられないもん」 「神がいるなら救いがある。 救済は上位のものからしか与えられないんだから」 「良くわからないけど、私には関係ないことね。 困ったときは、私を助けたくてうずうずしてる男の子に頼めばいいだけだし」 わざとらしくウィンクをする恋花を見て、母を思い浮かべた。 娘が一生背負うべき名前を、恋花と付けた母親。 妹も母に似て、色恋沙汰に明け暮れる人生を送るのだろう。 周囲のこともその先も、花と散るまで考えず。 「……ところで、そのチョコは誰に渡すんだ?」 「知ってるくせに」 脳裏に、今日もすれ違った数学教師の顔が浮かぶ。 「高原か。あの、甘いものが苦手な」 「正解、随分詳しいじゃない。まさか蓮士も好きなの?」 「……ついでに、既婚者だってことも知ってる」 いたずらっぽい笑みを無視したが、僕の嫌味も受け流された。 「そんなの、女の子ならみんな知ってることよ。 生徒はもちろん、先生たちまでね」 妹は僕に似ず、常に笑顔を絶やさない。 それが彼女の信条なのか、はたまた何も考えていないだけなのか。 十七年間ともに過ごしてきた僕は、後者だと確信している。
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