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「二重の意味で無駄骨になるだけの代物に、労力を使う意味がわからない」
「蓮士さあ、私のこと何にも考えてない女だと思ってない?」
バレていた。
「私はおまじないなんかやらないけど、確実性のあることだったらやるのよ」
「確実性?」
再びテーブルの小瓶に目をやる。
以前、これと同じものが父の部屋にあったことを思い出した。
クローゼットの中のチェスト、日記と通帳が入った鍵付きの引き出し。
適当な父らしく、鍵はデスクの引き出しに入れっぱなしだったが。
「よくそれを見つけ出したな。というか、どうして分かった?」
「だから、私は何も考えてないわけじゃないの。
パパはずっとバッタの標本作りにハマってたでしょ? だとしたら、何かしらの毒物を持っているはずじゃない」
秘密と引き換えに譲り受けた、父の昆虫標本。
形と色をあそこまで美しく保つコツを、あの日父は教えてくれた。
「だとしても」
恋花にしては、途轍もなく頭を使ったのだろう。
しかし、何のために。
「結局、お前は何を考えてるんだ。好きな男に毒を盛って、心中でもする気か?」
メレンゲとチョコレート液を混ぜながら、彼女は小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
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