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「下、行ってみる?」
しばらく黙っていた笹沼さんが指差した。
今あたしたちが立っているのは、駐車場から砂浜へ続く階段の上。
あちこちに風で飛んできた砂があるけれど、体感できるのはたまに吹く潮風くらいだ。
「ここでいい。」
きらめく黒い海を眺めたまま答えた。
「そ。」
笹沼さんも海を見つめ、それしか言わなかった。
正直に言えば砂浜を歩きたかったけれど、通勤用の私服姿だったため靴がスニーカーだった。
砂が入るのは嫌だし、かといってここで脱ぐのも気分じゃなかった。
サンダルだったらよかったのに。
「あの、なんでここ?」
風に靡く髪を押さえながら聞いてみる。
「なんとなく。夏夜さん好きかなーって思ったんだけど…はずれ?」
いたずらっぽく笑って首をかしげた笹沼さんの顔が少年のようで可愛かった。
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