当たり前な日常である。

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「おはよう、藍さん」 一応、挨拶する、名前を忘れられていたけれど、僕は女の子の名前を忘れてはいない。もちろん、女の子は女子生徒の制服を着ている。 「おはよう、宇佐美でいいって言ってるでしょ、可菊くん、それと佐志さんもおはよう」 宇佐美に指差された、吹子は嬉しそうに笑顔を見せていた。おもちゃを貰った子供のように嬉しそうに笑う。 藍宇佐美[アイ、ウサミ]はその笑顔の内に潜んだ悪意に気づかない。 「人を指差すなんて失礼じゃないかな? 風紀委員の藍ウサギさん」 そう、彼女こそが一年生の頃から吹子を更生させようと奮闘する、風紀委員だ、涙ぐましい努力も実らないままなのが残念でしかたない。頑張って宇佐美さん。 「ウサギじゃないわよ、宇佐美、何度、言ったらわかるの? 鳥頭なの?」 ムキーッと宇佐美が怒る。 「え? 何、ウナギ、藍ウナギ?」 吹子も耳に手を当てて、わざと聞こえない振りしつつ、また、間違えた。もちろん、これもわざとだけれど、頭に血が登った宇佐美は気づかない。 「宇佐美!! ウナギってなによ、蒲焼きにしたら美味しいけど、人の名前にしたら、ウナギに失礼でしょーが!!」 「ツッコムとこ、そこなんだ」 確かに、ウナギ美味しいけど、どこか論点がズレている。まぁ、吹子が彼女をからかう理由もそれなんだろうけど。 「ハイハイ、わかったから、そこをどいてくれるかな? 藍うどんさん」 「ウサギ……じゃなくて、宇佐美って、生き物から、食べ物になってるじゃない!! うーー!! もういい、学校、行く!!」 マウンテンバイクを前方に向けるとものすごい脚力でペダルを漕ぎ、あっという間に宇佐美の姿は消えた。たち漕ぎだったせいか、学校指定短めスカートが災いしたのか、その脚力の余波かわからないけど、パンツが丸見えだった。ウサギさんの柄物である。 「今日も元気だね、ウサギちゃんは」 クックっと、吹子は嬉しそうに笑う。 「いい加減、名前で呼んでやれよ」 ちなみに、特徴的な白のリボンと名前から、ウサギちゃんと愛称があるけれど、本人は知らない。加えて、命名は吹子だ。
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