当たり前な日常である。

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「ハイハイ、じゃ、圭一、返す」 下着姿で吹子は廊下を歩き、洗面所に向かって行く、ついでのように、脱いだジャージを僕に渡す。多分、濡れた身体にそのまま、ジャージを着たのだろう、しっとりと湿っていた。微かに香る、女の子の甘い匂いに頭がくらりとした。 「あとさ、圭一、もし、この世界がさ、ライトノベルだったとするよ? かわいい妹がいて、めんどくさい幼なじみがいる、何げなさすぎな日常がそこに転がって、ちょっとエッチなことも起こる」 吹子が、まくしたてるように語る。ピシッと人差し指を立てて。 「そんな当たり前な日常を望んでんなら、やめたほうがいいよ?」 吐き捨てるように、吹子の嫌う、当たり前という言葉を出して。 「だって、圭一も私も少しだけズレてるんだからさ、変な組織に所属してないし、異能の力があるわけじゃないし、異世界にもいけない、けど、人より価値観がズレてる、だから」 「わかってるって、早く着替えてこい、早く着替えてこないと僕が狼になるぞ、ガオー」 長いよとは、さすがに言えなくて。 「ニャハハハ、狼がガオーじゃなくてウォーンだって」 独特の笑い声を吹子を漏らし。 「けどまぁ、圭一が狼になるまえに着替えくるよ」 とっとと早足で吹子が駆けていく。 わかってるよ、吹子、ズレてるかもしれないけれど、ライトノベルの世界なら僕達だって当たり前に生きられるんだと思うんだなんて言えない。きっと、吹子は怒るよね、吹子は当たり前が嫌いだから。
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