当たり前な日常である。

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吹子が洗面所に入った。手元には吹子の着ていたジャージがある。ふわりと温かく、甘い匂いのするジャージが手元にある。そして、僕は男子高校生である。 「…………」 意味もなく、辺りを見渡す、恵は学校に行った、吹子は洗面所にいる。この玄関に居るのは僕一人だ。 「早く身支度しないとなー、遅刻しちゃうよな」 これは罠だ、吹子の何かしらの狙いがあるはずだ。僕を辱めて楽しむつもりなんだ、けれど、手元のジャージから意識をそらせない。 「…………うん」 生唾を飲み込んだ。いい匂いがする。心臓がバックン、バックンして、背徳感が漂う、ジャージを持って。 「吹子、これ、洗濯機に入れといて」 扉越しに要件を伝えた。へたれと罵りたい、でも、やっていいことと、悪いことがあると思うんだ。仮に女の子の匂いを嗅ぎたくなったとして、笑い話のネタなら十分だ、実際にやったら変態だ。だったらへたれでもいい。 「なんで泣いてんの?」 扉を開いた、吹子が真っ先に聞いてきた。 「目にゴミが入ったんだよ、うん」 「ふーん、 涙腺緩くなったんじゃない?」 「そうかもね」 「てかさ、早く支度してよ、私は終わったよ」 ジャージを受け取り、僕はため息をついた。 佐志吹子は今日も男子生徒の制服を着ていたのだから。
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