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「あれ」
「ああ?……マジか」
夏場の外回りはしんどい。
ネクタイを緩めながら涼を求めて入ったカフェで、アイスコーヒーと灰皿を載せたトレー片手に空席を求めてウロウロしていたら。
懐かしい女と、再会した。
「空いてるよ、隣」
数年ぶりの再会にも関わらず『久しぶり』の一言もなく、ごく自然に隣の椅子に置かれた荷物をどかしながらそう言って笑った彼女は、相変わらず――……
「でも俺、煙草――」
「あ、私気にしないから」
咄嗟に逃げ腰になって吐いた、暗に遠慮の意を込めた俺の言葉はさらりとかわされる。
平日の昼間というのに込み合った店内を見渡せば他に空いている席もなく、あえなく撃沈。
「……じゃ、遠慮なく」
「どーぞ」
テーブルにトレーを置き、カバンを足元に投げ、ポケットから煙草と携帯を取り出す。
隣の女はストローをくわえたまま、その一挙手一投足に絡みつくような視線を送ってきた。
「……見すぎ、じゃねえ?」
躊躇いながらもそう突っ込むと、ストローから離れた唇が綺麗に弧を描く。
グラスの底に沈むストローの反対側の先から、小さな泡が立った。
「いや、なんか久しぶりだから。大人になったね、圭ちゃん」
「――……ちゃん、は止して下さいよ廣瀬女史」
廣瀬とは大学の同期だった。
タメのはずなのにその頃からどこか大人びていた彼女は、いつも俺を見透かしていて。
3年ぶりに偶然の再会を果たした今も尚、相変わらず俺より大人だった。
嫌でも思い出される、あの頃――。
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