地の刻(1日目)

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三神静が静かにブチギレるのが分かった。 彼女の長い黒髪が、肩から背中へ、生き物のようにゆっくりとすべり落ちていく。 あと、1歩。 鳥澤が二人の間に入り込むのが遅かったとしたら。 根岸凛はその細い首根っこを掴まれて、床に頭から叩き付けられていたかもしれない…。 「あんた、凛ちゃんだっけ?」 鳥澤楓の眼は笑ってない。 「気がつかないかなあ? あんた、冬馬に単独でうちらのチームに行くよう言われて来たんだよね? 見たところ武器を所持してるようにも思えないし? …冬馬に囮にされたって思わない? ねえ?可哀想なおチビちゃん?」 鳥澤は巧い。 おそらく、三神を揺さぶろうとした根岸凛を逆手に取って、反対に揺さぶりをかけているのだ。 凛の顔が歪む。 その間に、三神が冷静さを取り戻した。 「…そうね。せっかく来てくれたんだから、ゆっくりして行って? ほら、もう部屋にも帰れないわよ。タイムオーバーってやつね?」 三神は大時計を指差した。あと2、3分ほどで"子"の刻は終わる。 「…誰か。この子の部屋のベッドからシーツを持ってきて。」 「…何をする気ッ!!…あんた達、何も分かっちゃいないッ!!」 根岸凛の身体は椅子に押さえつけられ、シーツを破いて作られた即席のロープで縛られた。 「これをただの余興だと思わないで!!あたし達のチームの一人は、既に"犠牲"になった!!」 凛は縛られてるにも関わらず、足をバタバタさせて抵抗した。 「足も縛るわよ。」 三神は容赦ない。 「あ、あのさ…そこまでしなくても…」 あたしは凛が少しだけ可哀想に思えてきた。 「大丈夫。三神は凛がちゃんと喋ってくれたら、解放する。酷いことはしない。」 猪ノ瀬弥生は、止めようとするあたしを引き止めて言った。 「手荒なことしたら、私が三神を止めるから心配しないで。」 「う、うん…。」 そうよね。 今は相手チームの情報が欲しい。 凛には悪いけど、色々喋ってもらわないと。 凛が漏らした"犠牲"って言葉も気になるし…。
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