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「…その事なんだけど、1つ提案がある。
新藤さんたちも聞いて。」
冬馬は床に座ってお喋りに興じていた双子を呼び寄せた。
本当にマイペースな子達。
「ね?聞いてくれる。
私達は不幸にも乾志保さんを失ってしまったけど、もう誰も死なせたくないの。」
冬馬瑞季は胸に手を当てると、悲痛な表情をした。あたしも胸がキュッと痛くなる。
あたし達は乾志保の最期を見たのだ。
「みんな聞いて!」
志保は言った。
「私は早くここから脱け出したいの…こんな事に付き合ってるほど暇じゃないのよ!
いいわ、皆が嫌なら、私一人だけでも帰る!!」
帰りたくても出口がないのだ。
「これよ、これ。この"神の座"ってのが怪しい!…ここが出口よ絶対!」
神の座…1日に1度、生け贄を捧げるという場所。
中央テーブルのスイッチで開閉する。
志保がスイッチを押すと、急に部屋の照明が薄暗くなり、ちょうど大時計の真下の床から椅子がせり上がって来た。
悪趣味な鉄製の椅子だった。手足のくる部分に拘束用の革ベルトが付いていた。
「私を縛って!」
志保が言った。
「生け贄になれば負け。ゲームオーバーで1抜けでしょ。私は帰る。」
試合放棄。
それが彼女の出した答えだった。
「安心して。無事外へ出られたら、警察に通報くらいはしてあげるから。」
志保はニッと笑った。
その笑顔につられて、皆も笑う。
「じゃ、冬馬さん。そろそろスイッチを押してくださいな。」
ああ…、
彼女を処刑台に送ったのは冬馬だったんだ。
もちろん、冬馬だって知らなかったんだ。
…生け贄の、真の意味を。
椅子は、乾志保の悲鳴と共に消えた。
椅子は想像以上に凄まじい速度で床下へと滑り落ちて行ったのだ。
冬馬は真っ青な顔で再びスイッチを押す。志保を呼び戻すために…。
椅子は再び我々の目の前に現れた。最初とはだいぶ違った様子で。
…そこには、さっきまで"志保だった"モノがいた。
「う…うっ…うわあああああっ!!」
彼女の身体は、高速度で地面に叩き付けられたのだ…!
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