天の刻(2日目)

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「…その事なんだけど、1つ提案がある。 新藤さんたちも聞いて。」 冬馬は床に座ってお喋りに興じていた双子を呼び寄せた。 本当にマイペースな子達。 「ね?聞いてくれる。 私達は不幸にも乾志保さんを失ってしまったけど、もう誰も死なせたくないの。」 冬馬瑞季は胸に手を当てると、悲痛な表情をした。あたしも胸がキュッと痛くなる。 あたし達は乾志保の最期を見たのだ。 「みんな聞いて!」 志保は言った。 「私は早くここから脱け出したいの…こんな事に付き合ってるほど暇じゃないのよ! いいわ、皆が嫌なら、私一人だけでも帰る!!」 帰りたくても出口がないのだ。 「これよ、これ。この"神の座"ってのが怪しい!…ここが出口よ絶対!」 神の座…1日に1度、生け贄を捧げるという場所。 中央テーブルのスイッチで開閉する。 志保がスイッチを押すと、急に部屋の照明が薄暗くなり、ちょうど大時計の真下の床から椅子がせり上がって来た。 悪趣味な鉄製の椅子だった。手足のくる部分に拘束用の革ベルトが付いていた。 「私を縛って!」 志保が言った。 「生け贄になれば負け。ゲームオーバーで1抜けでしょ。私は帰る。」 試合放棄。 それが彼女の出した答えだった。 「安心して。無事外へ出られたら、警察に通報くらいはしてあげるから。」 志保はニッと笑った。 その笑顔につられて、皆も笑う。 「じゃ、冬馬さん。そろそろスイッチを押してくださいな。」 ああ…、 彼女を処刑台に送ったのは冬馬だったんだ。 もちろん、冬馬だって知らなかったんだ。 …生け贄の、真の意味を。 椅子は、乾志保の悲鳴と共に消えた。 椅子は想像以上に凄まじい速度で床下へと滑り落ちて行ったのだ。 冬馬は真っ青な顔で再びスイッチを押す。志保を呼び戻すために…。 椅子は再び我々の目の前に現れた。最初とはだいぶ違った様子で。 …そこには、さっきまで"志保だった"モノがいた。 「う…うっ…うわあああああっ!!」 彼女の身体は、高速度で地面に叩き付けられたのだ…!
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