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ゆうゆうと口ずさむ男の歌声をさえぎったのは、彼の内から、身をしめつける痛みだった。
「ぬっ……!」
疼きに、座した男は小さく身じろいだ。
呼吸は荒い。表情はサングラスに隠されて、うかがえなかった。
男の右腕に巨大な装置がとりつけられていく。
円筒形をした金属の義肢が、筋力を補助する太いチューブによって、肩を覆った器具に接続された。肩の器具はベルトで厚い胸板に固定される。
駆動。
義肢のまわりに、星形に配置された複数のシリンダが沈むと、機械の手がパワフルに動作しはじめた。
異様だった。
その義肢は、失った腕の外見をとりもどすための器具ではない。腕に、あらたな機能をあたえるためのものだ。
「…………!」
パンチ穴が空いたヒートシールドがビリビリと音を立てた。男は義肢を壁に叩きつけて、それを黙らせた。
ズンッ!
衝撃が、尻に響く。
彼を呼ぶのは、いつも、この荒ぶる砲声だった。男は腰をあげた。
星空のもと――
甲板に姿をあらわした男の前には、戦場があった。
夜襲。
味方艦隊のすべての艦砲が火を噴いた。支援砲撃。砲声が連なり、回転砲塔が断続的に弾をぶちまける。
熱と光、炎が、騒がしい夜を彩る。
甲板は砲煙でけぶる。小型砲は海岸への追撃。長射程の大型砲は、島の高台にある建物を狙っていた。
旗艦〈ホワイトタイガー号〉が備えた巨大な衝角のむこうに、今日の敵を見えすえた男は、ひるまず指揮を執った。
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