序章

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それでも。 この戦場の音を聞くたび、男は奮い立つのだ。 「上陸戦は、はじめてか?」 男は、おびえる若い兵の肩に手をおいて、話しかけた。 「はい……」 「なら、これで、おまえも一人前の海兵だ」 上陸戦こそ海兵の真骨頂だ。最も危険で、最も死に近い戦場だった。 「――ションベン弾なんざ、あたりゃしねェよ。なぜって、おれが乗っているからだ」 痛みを、気力にかえて。 老いを、覇気にかえて。だから薬は最小限だった。痛みが失われたときが、男が死ぬときだから。 船底が砂をこすった。 担当の部下がハンドルをまわした。船前方の昇降扉が開いていく。 兵たちは、扉が開ききるまで待ちきれない。早く外にでたいのだ。まっ暗な船室で、見えない砲弾をくらうのだけは勘弁だ。 あわただしい空気のなかで、男は、ゆっくりと腰をあげた。
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