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「あんまり、可愛いとこ見せないでくれ。」
「はっ…、は…。え、な、なに…?」
瑛介が何を言っているのか入ってこない。
キスしただけなのに、足がガクガクして、壁から離れられなかった。
瑛介は少し溜息を吐くと、そんな俺をぎゅーっと抱き締めて、ぽそりと呟いた。
「大切にする。」
その一言に、俺の胸はきゅうっとなって、嬉しいような、切ないような、不思議な気持ちになった。
俺も、瑛介に抱き付いて言葉を返す。
「うん。俺も、瑛介を大切にする。…大好きだよ。」
俺たちは落ち着くまで抱き合って、
どちらからでもなく、指を絡めて
ゆっくりと、駅まで手を繋いで歩いた。
「母さん!瑛介のお母さんと知り合いなわけ!?」
俺は家に着くなり、母さんに志乃さんの事を話した。
「え?瑛介、って真中瑛介くん?そりゃ知り合いよぉ~。高校の頃からの親友だもの!って、いきなりどうしたの??」
「今日遊びに行ったんだけどさ、母さんによろしくってさ、志乃さんが。」
「あら、今日志乃さんのとこ行ったのー!?私も行きたかったわぁ…。あれ?なぁに、あっくん瑛介くんと仲いいの?高校が一緒なのは知ってたんだけど…。」
「う、あ、そ、そう!クラスが一緒になってさ、中々仲良くなったの!それで…。」
「そうなのねぇ。そういえば、瑛介くんと、あっくん小さい時何回か遊んだ事があるのよ?あっくんは、…多分覚えてないけど。」
「…覚えてるよ、母さん。」
「……あっくん?」
母さんは不安そうな顔で俺の顔を見た。
「瑛介に会ってから、思い出したんだ。じいちゃんの家で一緒に遊んだ事。あと、俺が誘拐された事も。」
「あっくん…。…そう、思い出したの…。誘拐の事は、思い出して欲しくはなかったけれど…。」
少し辛そうな顔の母さんの手が、俺の頭を撫でる。
俺はその手を取って、小さく顔を横に振った。
「俺はあの時、瑛介を傷付けちゃったから、全部、思い出せて良かったと思うよ。誘拐の時も、誰かに助けて貰えて、酷いことはされなかったし。俺は大丈夫だよ。」
俺は笑って、そう答えた。
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