幻影

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平日の真っ昼間。 熱に揺れる太陽が肌を、アスファルトを焼き、ベタベタとした汗が止めどなく噴き出す。 あてもなく彷徨う街は煩い。 排気ガスを吐き出して次々と走り去っていく鉄の固まり。 携帯を耳に当て、愛想笑いを浮かべて腕時計に目を落とすくすんだサラリーマン。 学校はどうしたと問いたい制服姿のジョシコーセー。 狭い歩道を我が物顔で歩くベビーカーを押した厚塗り女。 せわしい街は喧騒に溢れ、こんなにも……煩い。 お前が隣を歩いていた頃はこんなこと思わなかったのに、な。 ふっと自嘲を浮かべて、交差点を渡る足を止めてみる。 俺一人が立ち止まったところで世界は止まらない。 人々は歩みを止めない。 どうしてだろう、追い越していく人、すれ違う人、俺を囲む全ての人が笑顔に見えて。 明日への希望に満ちているように見えて── 羨ましく、思えた。
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