第壱話 その男、安倍晴明

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今から約千年前ーー……。平安時代。平安京から少し離れた屋敷に、後の歴史史上、最強と言われる陰陽師が居た。 「月の綺麗な夜だな。こんな夜は、月見酒に限る。なあ、遊亥(ゆうがい)」 『そうで御座りますね、晴明様。しかし、私は猫です。何より、死んだ身ですので、酒を嗜むことは出来ませぬ』 晴明様と呼ばれた男の膝の上で、黒猫は鳴いた。というより、喋った。 「ふふ、そうだったね……。すまぬ」 『お気になさらず……。黒猫というだけで、忌み嫌われ、殺された私を弔い、まして貴方様と話も出来るようにしてくださったのです。この遊亥、それだけで満足なので御座います」 晴明の手中の赤い盃。そこに映った満月が、ゆらりと揺れた。 「随分と、欲の無い猫だね、お前は……」
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