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――アレイスト王国、首都ティオールにて。
「ったく、胸糞悪いぜ」
その日の報酬金を受け取った後、ライルとブライトは行きつけの酒場のカウンターで飲んでいた。依頼を終えた後はこうしてここで一杯やるのがお約束になっているのだ。不満を口にしながらブライトは蒸留酒をあおる。同じ酒が入ったグラスの中で氷が溶ける様を眺めていたライルは「何が?」と聞きかけて止めた。
思い当たる節は依頼のことだ。今日暴れていた種の熊は巨体の割に本来臆病な性格で、人を感知した場合、向こうから積極的に襲ってくることはほぼない。大きなストレスを抱えている場合か、以前に人を襲った経験のある場合の二択である。
今回は自分達を見るなり、一直線に襲ってきたと二人は記憶している。しかし、心の中で引っ掛かっているのは、まるで人に対する恐怖を取り除くための自衛本能が働いているかのように思われたことだ。
「どうせ、物好きな誰さんが暇潰しに痛めつけたってとこだろ」
「それにあの傷の数、一人や二人じゃない」
ライルの言う通り、あの巨躯に悪戯で戦いを挑んだのなら正気の沙汰ではない。どうであれ、彼らの懐へ金が入り込むことになったにも拘らず、ブライトは不愉快そうだった。一方ライルはこれ以上の判断材料は無く、特に興味も無かったのでグラスを手に周りに聞き耳を立てる。
――なあ、次の国王はやっぱりエテルナ様になるのかな。
――順当にいけばな。でも王室内は結構揉めてるって噂だぜ。
「……」
「どうかしたか――って、ああ」
ブライトはさりげなく後ろに目を向ける相棒の視線を追い、合点がいった。
エテルナ・ル・アレイスト。亡きヨハン国王の一人娘であり、王位継承権第一位の若き女王候補。亜麻色の長い髪が印象的の可憐な容貌を持ち、人々からはエテルナ様と親しまれている。
「お前、どう思う?」
「……いくらうちが世襲制だからって、お姫様に軍事カリスマを期待するのは無理なんじゃねーの? お隣さんが活発なんだし、今はそういう奴の方が必要とされてる」
「だよなあ」
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