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現在騒がれている問題の主な焦点となっているのが西の軍事大国ヴァリアントの存在である。近年周辺諸国を積極的に吸収し続け、勢力を増しているとのこと。しかしながら、先代国王は軍隊の急激な規模拡大を良しとせず、インフラ整備に力を入れていた。当然、軍関係者からは不満の声が上がり、今にまで附けが回ってきている。
「でも惜しいとは思わねえか。女王様だぜ、女王様。俺様の好みからはちょい外れるが美人の部類に入ることは間違いねえ。戦争にでもなった時に敵に自慢できるんだぜ? 『いいだろ、あれがうちのリーダーなんだぜ』ってな」
「あんたの好みなんざ知るか。ま、別に俺は女でもいいさ。度胸と覚悟があるならな」
彼らしい意見だとライルは俗物を見る目で溜息を吐く。ブライトの中では女が金より上位に位置するという話もまた二人の名前と共に広まっていた。女好きな上に金好き。実に情けない話である。行動を共にするライルも動揺なのかと疑われることもあるが、実際はそうでもなく、寧ろその逆。金を稼ぎ、腹を満たす。その“作業”だけで彼は安心し、他の事には特に興味を持てないでいた。
と、会話をしていたところ、ライルは視線を感じた。右隣に視線を寄越す。見れば身なりの良い男がこちらを窺っていた。小奇麗に髪を後ろで結んでいる。無視しようと顔を正面に向ける前に、その男は片手を上げた。
「やあ、君達。もしかしたら、なんだけど……賞金稼ぎで有名なお二人さんで間違いないかな?」
男はやけにフランクに話しかけてきたが、ライルには面識のない人物であった。「こいつ誰」とブライトに尋ねるも彼は肩をすくめる。
「失敬。ボクはシルヴィオ。普段は交易商をやってるんだけど、少し困ったことがあってね。君達に依頼をお願いしたい」
「おお、依頼ですか! ではでは、内容と報酬金を教えて頂けますか」
依頼と分かるやいなや気持ち悪いぐらいに紳士な対応に切り替えるブライト。顔だけ男前見ればではあるのだが、なんとも残念な性格である。さっきまで自棄酒をしていた同一人物とはとても思えない。
「まず報酬金ですが、二十万シグル――」
「受けましょう」
「はあっ!? 待てよ、おい!」
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