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大和川は汚く、猛烈に濁っていても、魚影は濃かった。
一投げで20匹は入った。
鯉、フナ、雷魚、ブルーギル、ブラックバス、ウグイなど。もう魚種の坩堝だった。
同時に鉄くずや針金のたぐいも掛かり、投網の網が破けて、八丁が悲鳴をあげた。
それを見て、カムイ達は爆笑した。
バヤが背中のリュックから、おもむろに箱を取り出した。
皆、一目でそれがなにかを理解したと同時に驚いた。
「なんで、爆竹なんか持ってんねん」
「まぁ、なにがあるか、わからんからな」
バヤは不敵に笑った。
そして、急に真摯な顔になって、次のように言った。
「こいつらは敵やねん。害魚や」
ブルーギル、ブラックバスを指差して言った。
一同はバヤの言動に注視した。
八丁は投網を投げるのと、網に掛かった鉄くずや針金を外すのに躍起になっていた。
バヤは、陸揚げされたブルーギル、ブラックバスの虚空に向け、パクパクする口に、爆竹を2,3本づつ挿していった。
それを見ていた彼らは、容易に察した。
驚きと期待が交錯する。
バヤはご丁寧に、マッチまで持っていた。
子供は残酷なものである。驚きは薄れ、期待が膨らんだ。理科の実験のつもりでいる。
バヤは手馴れていた。
「火、付けたらさがれよ」
「よっしゃ」
「わかった」
バヤはまるで打ち上げ花火師のように、次々に着火した。
わざと導火線を長くしてあるので、じりじりと火が伝う。
残酷物語だった。
害魚は駆逐された。
生暖かい水が流れる川をあがる頃には、投網はぼろぼろになっていた。
八丁は散々だったが、西山は完全に溶け込んでいた。
夕方になったので、屯鶴峰に戻ることにした。
ぶーたれる八丁に、きんきんに冷えた西瓜をおごってもらった。
喉の渇きを癒し、屯鶴峰に向かった。
奇岩がむき出しになった頂上は、真っ赤な夕日が目に沁みた。
光化学スモッグが出てなかったので、真っ赤に染まった空を見入って、誰も言葉を口にしなかった。
カムイ・宮・バヤ・かたやま・西山は、ここで友情を誓った。
八丁が、
「お前ら、どんずる坊や」
と、笑った。
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