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カムイの生まれは、東大阪、育ちは専ら河内である。幼少期はずっと河内なのだが、小学校の高学年の頃、異性に目覚めるあたりから、二上山、屯鶴峯(どんずるぼう)を境に、大阪と奈良の学校を行ったり来たりする生活になる。それは親の仕事の関係でだ。
カムイの幼少期は、食べ物の好き嫌いが多く、顔は青っ白く虚弱だった。夏太陽の下、広場にいるだけで、すぐに日射病で倒れる。そんなカムイは、あけぼの保育園のスミレ組に配属され、担当の藤田先生に可愛がられていた。すぐに倒れるので、常に目が離せなく、気懸かりでしようがない。保育園での母親のような存在だった。
だが、その頃から片鱗は既にあった。要領がよく、すぼっこい。何事にも抜け目がないのだ。無難に立ち振る舞う。
しんちゃんとは、同じ歳で家が二軒挟んだ近所ということもあり、あけぼの保育園時代からの幼馴染である。いつも、大人しく、泣き目をしている。どこか儚げで影の薄いところがあった。
保育園から帰ると、いつも二人で遊んでいた。家は一応、分譲住宅なのだが、全部で二十戸ほどの小さな塊で、周りには畑が延々広がっていた。高い建物が何もないので、高安山がはっきりと見える。
自然、遊び場は畑となる。
ふたりは、いつものように畑を駆けていた。小さな子供の足なので、家のすぐ裏手でのことだった。
しんちゃんは、おしっこをしたくなったのか、半ズボンを太腿までずり下げ、小水を迸らせた。
しんちゃんの眼差しは真剣だ。それにいち早く気付いたカムイは、畑の一点に注ぐ、小水の行く先を見る。
そこには、土から顔を覗かせたミミズがいた。
しんちゃんは、ミミズ目掛けて、浴びせていた。
「あかんで! ミミズにかけたら、バチあたんで」
「ええっ!」
もう、小さなタンクの小水をほとんど浴びせたあとだった。ミミズは黄色に泡立つ水溜りのなかで、身をくねらせていた。
「えっ、なに、バチって?」
しんちゃんは動揺の色を隠せない。
「バチやん。あかんって」
「……」
もう、しんちゃんの目は泣きそうになっていた。薄ら、涙を浮かべていたかもしれない。
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