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「知らんで」
カムイは家に向かって、走り出した。
「ちょっと待ってぇな」
しんちゃんは、雫の払いもせず、慌しくズボンを上げた。
そのときだった。
「痛い!!」
しんちゃんの、悲痛な声がこだまする。
カムイが振り返ると、しんちゃんは、股間を押さえて、蹲っていた。
「どしたん?」
カムイは足を止め、叫んだ。
「わからへん、痛かってん」
しんちゃんも大きな声で答えた。
しんちゃんは、目に涙が溢れていた。それは遠目にも感じで分かった。だが、次の瞬間には、もう立ち上がって、カムイの方に歩き出していた。
カムイはチャックもない半ズボンやのに、おかしいなぁと思った。もうこっちに歩いてきているから大丈夫やろうと思った。
子供同士は常に競争となるのである。この他愛もない、家まで帰るという行為にも、当然競争が生まれる。
すでにカムイが、10mもリードしていた。
しんちゃんはまともに行けば、追いつけないと、すぐに悟った。
悪いことは続くもので、しんちゃんは近道を選ぶ。カムイは畑を迂回していたが、しんちゃんは畑のなかに突っ込んだ。
カムイは、このとき、なにかやばいと思った。
なにかとんでもないことが起きる予感があった。
カムイは少し足を進め、しんちゃんの行く進路を目で追った。
直径2mくらいの丸い円形のコンクリのへりに、しんちゃんの足が掛かったときに、「あっ!!」となった。
カムイは知っていた。
その、他を圧倒する、強烈な異臭を放つものがなんなのかを。
そして、木の蓋がしてあるが、もう腐っていて、ぼろぼろであることを。
すぐに声を掛ければ、しんちゃんを止められたかもしれない。だが、カムイはその先を見てみたかった。止めたいと見たいの比率が、若干、見たいの方が大きかった。
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