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カタン。
鏡の傍らに設けられた小さな棚に櫛(くし)を置くのと共に、私は小さくため息をついた。
「……はぁ」
さして広くもない寮の一室に、自分自身の吐息が溶けるように消えてから程なくして、私は鞄を取りに向かうべく洗面所から寝室兼勉強部屋へと向かった。
その途中、何度櫛を通しても、どこかおかしな気のする髪に、更に数回ほど手櫛を通すが……。
やはり、何となくしっくり来ない。
今日はいつもよりも早く起床して、その分身支度はいつもより念入りに整えたはずなのに……。
「…………」
一ヶ所について疑い始めると、他の全てもおかしい気がしてしまう。
あれこれと考えている内に、いつの間にか鞄を取りに向かったはずの私の足は、もと来た洗面所へと引き返していた。
見えない力に突き動かされるように、もう一度、私は鏡を覗いた。
腰まで届きそうな直毛の黒髪は、見たところいつもと変わらない。
続いて、私は鏡に顔を近づけると、まるで鏡の中の自分とにらめっこをするように、じっと向こう側を見つめた。
髪と同じ色をした細い眉。
切れ長の黒い瞳に、少し低めの鼻と、上から順に見回していくが、こうして見た限りでは大丈夫そうだ。
一旦鏡から顔を離すと、私は次に、再度の服装の確認へと移った。
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