プロローグ

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その人外は全身に銃弾を浴び、その身体からは夥しい血液が流れていた。 赤黒い血に染まったその日本兵の動きはまるで、野生の豹のような、いや目で追うのがやっとのスピードで移動し次々に我が兵を殺していた。 それも信じられない事だがほとんどが素手で殺されていた。 その人外の拳はヘルメットごと頭蓋骨を砕き、手刀で首を胴体から切り離していた。 そして、彼の左手に握られている日本刀はいったい何人の血を吸えばそうなるのか、血脂が刀身にべったりと張り付きノコギリの様にギザギザと刃が欠けていた。 私が外に出てから時間にして十数秒の間に約10人の兵士が物言わぬ肉塊に変えられた。 幾多の戦場を駆け抜け、凄惨な修羅場でも最善の策を考え、戦争を生き抜いてきた私が、この時初めて戦場で冷静さを失った。 このあり得ない現実と人外の殺戮に魅いられ、また翻弄され、私はただ茫然と見ているだけだった。
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