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「あれ?夏樹さん?こんなところで何してるんですか?早く乗らないとバスが出てしまいますよ」
バスの運転手がこっちを睨んでいる。おそらく、早く乗れという目をしているのだろう。慌てて俺は、乗る意思がないということを、運転手に伝えた。そして、バスは発車した。
「バスに乗る気がないのに、バス停のイスに座ってたんですか。迷惑をかけちゃ駄目ですよ」
「散歩の休憩だよ」
俺は投げやりに答えた。
「なんでそんなにイライラしているんですか。よかったら相談にのりますよ」
相談したい事。それはプロポーズの返事のこと。でも、俺はそれ以外にも悩んでいることがあった。真神さんが気になっているという悩みが。それを本人に相談できるわけがない。
「苦しそうですよ?大丈夫ですか?」
どんな顔をしていたんだろう。ほんの数秒考えていただけなのに。そんなにも苦しそうな顔をしていたんだろうか。俺は意を決して真神さんに相談した。
「
プロポーズをしてくれた彼女がいるのに
「俺は気になっている人がいるんだ。」
それを聞いた真神さんは驚くと思っていたのだが、平然としていた。
「私も悩んでいる事があります。私の好きな人は、彼女さんからプロポーズされているんです。」
唐突にそんな事をいった真神さんの目からは、ぽろぽろと、真珠のよう小さい涙が流れていた。
その時に俺の事だと分かってしまった。その人は彼女さんからプロポーズされているんですという一言で・・・。
俺はちょっと前に、真神さんとお茶を飲みにいった。特別な感情は特になく、仕事の事で相談していた。その時に色々話して、俺達は親しくなっていた。
シラフの真神さんと話すのは、仕事以外では初めてだった。
歓迎会の時の事はちょっとだけ忘れたって話をしたり、自分の感性が人とは違っている事が嫌だっていう事を聞いたり、好きな料理は和食だっていう事を聞いたり、色々と話して真神さんを知るきっかけの日となった。
その日から、美貴からは感じられない、言葉には表せない魅力を感じていた。
ここで正直になればいいのだろうか。美貴と真神さんのどちらかを選ぶということは、どちらかを必ず俺が泣かせてしまう。というよりも、なぜ俺は、真神さんが気になってしまったんだろう。人として気になるのか、異性として気になるのか。でも一つだけ結論は出ている
嫌いじゃない。
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