ケンカ

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 俺は、ごめんと言って電話を切った。一方的に別れ話を切りだして、一方的に電話を切る。最低な男だ。でも、自分のせいで、真神さんをあのようにしてしまって、自分だけがいい思いをしようなんて、俺には到底できない。電話を切った後も美貴から電話があったが、電話に出る事はなかった。  次の日、俺は病院に向かった。重い足を無理矢理歩かせて、真神さんの病室のある階へ進む。ただの階段も、どこかの国の階段のような感じがした。うまく言えないが、とにかく、変な気持で、俺は階段を歩いていた。   神楽さんの病室に入ると、そこにはナースがいて、身体を拭き終わったところだった。意識がなくても、身体は綺麗にしておかなければならないのは当然だった。  俺は、ナースが出ていくのを見届けてから椅子に座った。  「神楽さん、今日は付き合ってた彼女に別れを言ったよ。そして、これからは、毎日ここに来るから。職場の事とか、俺の事とかを話しながら、お世話できる事をするからね。」  そんな言葉を投げかけても、身体が反応することはない。素直に言うのは、ちょっと辛いタイミングだった。  「俺さ、プロポーズの返事をしてきたよ。答えは、別れてくれって言ったんだ。真神さんに、いつの間にか好意を抱いてた。それは、真神さんから告白されたから好きになったんじゃなく、なんだろう、上手く言えないけど、本当に好きだ。こんな形で言ったって、聞いてもらえてるか、分からないけど。というか こんな形で告白してごめん。これからは、真神さんの意識が戻るように願って、ここに来るから。そして、話しかけるから、だから頑張って生きてほしい。そして、意識が戻ったら、いろんな所に行こう。そして、いつかは、結婚しよう。何歳になっても・・・待ってるから、これが、俺の・・・気持ちだよ。」  言葉の後半は、涙を流しながら言った。本当は、結婚しようって言う言葉を、美貴に言えればよかったのにという後悔の気持ちと、真神さんへの素直な気持ちを、どんな形であれ、伝えられた事の嬉しさの気持ちの涙を、俺は流していた。
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