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「う・・れ・・・」
誰かの声がした。
「な・・・つき・・・さ・・・ん。」
正面から声がした。目をやると、真神さんの唇が動いていた。俺は、すぐにナースコールを押した。
先生やナースが、真神さんの両親を連れて部屋に入ってきた。真神さんの両親は、俺がいるのを忘れたみたいに、意識の戻った真神さんを見て、泣き始めた。もちろん、ナースコールを押した俺も泣いていた。
「意識が戻って本当に良かった。」
真神さんの両親は、これからどういう治療を受けるか説明を聞きに、医師の部屋へと行っていた。今は、大きな縫いぐるみが置かれた狭い病室に、俺と真神さんの二人だけだった。
「俺が言った事、聞こえてた?」
二人しかいない今しか聞けない訳ではないのだが、さっきから気になっていた事だった。
「なんとなく、聞こえてました。」
聞こえていたという事は、俺が、病室に入った時には、意識が戻りかけていたんだろうか。
「どのあたりから聞こえてた?」
かすれた声で、真神さんは言った。
「内緒です。・・・でも、とても恥ずかしくて、嬉しくなった言葉でした。こんな私ですけど、改めて宜しくお願いします。」
プロポーズの返事をもらった俺は、静かに微笑んだ。病院だからという訳でもなく、体から力をぬいて、自然に微笑んだ。真神さんも笑っていた。お互いの気持ちを、言葉で確認して、そして、その嬉しさを、お互いの顔で確かめあうように。
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