ケンカ

4/4

73人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
  「う・・れ・・・」 誰かの声がした。  「な・・・つき・・・さ・・・ん。」  正面から声がした。目をやると、真神さんの唇が動いていた。俺は、すぐにナースコールを押した。  先生やナースが、真神さんの両親を連れて部屋に入ってきた。真神さんの両親は、俺がいるのを忘れたみたいに、意識の戻った真神さんを見て、泣き始めた。もちろん、ナースコールを押した俺も泣いていた。  「意識が戻って本当に良かった。」  真神さんの両親は、これからどういう治療を受けるか説明を聞きに、医師の部屋へと行っていた。今は、大きな縫いぐるみが置かれた狭い病室に、俺と真神さんの二人だけだった。  「俺が言った事、聞こえてた?」  二人しかいない今しか聞けない訳ではないのだが、さっきから気になっていた事だった。  「なんとなく、聞こえてました。」  聞こえていたという事は、俺が、病室に入った時には、意識が戻りかけていたんだろうか。  「どのあたりから聞こえてた?」  かすれた声で、真神さんは言った。  「内緒です。・・・でも、とても恥ずかしくて、嬉しくなった言葉でした。こんな私ですけど、改めて宜しくお願いします。」  プロポーズの返事をもらった俺は、静かに微笑んだ。病院だからという訳でもなく、体から力をぬいて、自然に微笑んだ。真神さんも笑っていた。お互いの気持ちを、言葉で確認して、そして、その嬉しさを、お互いの顔で確かめあうように。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加