そばにいる

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「ひどいよね、こんな終わり方」  私は、夏樹から振られたという現実が受け入れられないでいた。話しかけるな、俺達は終わったんだ、という、夏樹の口から出た言葉。その時の顔は鬼の様な顔だった。そこまで真神さんを思っているのならば、私へのいい方もう少しあったんじゃないかと思う。  「元気出しなって、美貴ちゃん。」  目の前にいる女の子は夏樹と会う前からの友達で、名前は高花美緒李(みおり)。夏樹よりは付き合いが長い。一年位だけど。  美緒李とは、私が夏樹と会った田舎に行った時以外は、ほとんどの時間を過ごした親友だった。今は居酒屋で、二人で飲んでいる。私は仕事を今休んでいる。  皆に迷惑をかけてしまうのは分かっていた。でも、今の精神状態で仕事をしたら、色々失敗して、余計に皆に迷惑がかかる事が嫌だったから自分から会社に休むって言っていた。  「美貴は頑張ったよ。彼に尽くしてきてさ。今はゆっくり休む時だよ?おーい、聞いてますか~?」  私はボーっとしていた。美緒李から肩を叩かれるまでは。目の前には新しいビールが置かれていたのにも気付かなかった。  「美緒李に彼氏は出来たの?」  こんな気持ちの状態でも、そういう話はきになってしまう。私の親友だから心配する。とても大事な親友だから。  「男は当分いいや。なかなか気の合う人がいないからね。というか、前の男は束縛ばっかりだったから、疲れちゃってね。一人になりたいって思って、私から別れを切り出したの。あの店には行くな、この店からは30分以内に出ろとかね。最後にはあれを食べるな、これを飲むなってまで言ってきてさ、ストレスが溜まってた。今ではすごく楽よ。」  美緒李も苦労していたんだ。私の苦労は、美緒李に比べたらなんでもないと思った。私は恵まれていた。束縛なんてされなかったから。  「束縛か。美緒李も大変だったね。よし、もう一度乾杯しよう。」  私達はジョッキに残ったビールを一気に飲み干すと、もう一杯ビールを注文した。  そして、2度目の乾杯をして、いろいろと話してから店を出た。私はこんな時間を過ごせる人がいて、とても恵まれていると、改めて実感していた。
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