そばにいる

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僕は今日も、真神さんのお見舞いに来ていた。いつもの階段で、真神さんの病室に行く。  しかし、それも今日までだった。  僕が病室に行くと、真神さんはリクライニングベットを使って、体を起こしていた。一週間前に真神さんの意識が戻り、その時に出なかった声も、今では普通に出るようになっていた。ケガの事を除けば、出会ったころの真神さんだった。  「真神さん、具合はどう?」  「あっ、夏樹さん。体を動かすと痛みはありますけど、それ以外は大丈夫ですよ」  真神さんは目を逸らしながら言った。  「どうして目を逸らすの?」 目を逸らした理由が気になって、真神さんに聞いたのが間違いだった。  「夏樹さん、いつもお見舞いありがとうございます。でも、もう来ないで下さい」  えっ・・・もう来ないで・・・。自分の耳を疑った。  「勝手な事を言ってすいません。でも、申し訳ない気持ちで、胸がいっぱいなんです」  「申し訳ないって、一体どうしたの?」  真神さんの思い、それは・・・僕が思いもしないことだった。  「夏樹さんに恋人がいるのを知ってて、私の身勝手な行動で、二人の仲を裂いてしまって、申し訳ないと思いました。そして、この体になったのも、私の行動に、事故にあってケガをするという天罰が下ったと思ったんです。その天罰を受けた私が、夏樹さんから見舞ってもらうなんて事はできません」  そんなことないよ、その一言がやっと頭に浮かんだ。しかし、真神さんが考えていた事が、僕には強烈すぎて、何も言えなくなっていた。  「夏樹さん。私の気持ちを分ってくれませんか。これ以上、迷惑を掛けたくないんです。夏樹さんがここに来る度に、その思いが強くなってしまうんです。夏樹さんを最後まで傷つけてしまってごめんなさい」  そして、真神さんは僕に体を近づけてきた。動く度に体が痛むのにだ。
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