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そんなはずはない・・・なんて言いきれない自分に嫌気が指す。
理雄がそんなやつじゃないと分かってるくせに、そんな理雄のせいにして何もかもが嘘だったんじゃないかと勘繰る自分が、酷く醜いものに感じた。
いつだって隣に居たんだ。
笑うときもバカやるときも、告白してフラれた時もいつもいつも隣に理雄が居たんだ。
自転車を漕ぐ足に力が入る。
山道はどんどん険しくなっていく。
滴り落ちる汗。
自分の息遣い。
太陽がアスファルトを焦がす音。
車の音。
集中しろ。
今、この瞬間に集中しろ。
何も考えるな。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ペダルを漕ぐ足と共に息を吐く。
『あと少しで登りは終わりだぞ』
『頑張れ』
『頑張れ』
聞こえるはずのない理雄の声に励まされてるようだった。
『お前ならできる』
『俺より負けず嫌いのお前だから一人でも大丈夫だ』
『俺が居なくても、昴は大丈夫だ』
違う!
俺はいつも理雄に頼り切って来たんだ。
何かあったら理雄に相談して、理雄なら解決してくれるって。
それなのに、こんな突然隣から居なくなるなんて。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ペダルを漕ぐ。
息を吐く。
ペダルを漕ぐ。
息を吐く。
何度繰り返しただろうか・・・
気が付けばいつの間にか下り坂に差し掛かった。
何をするにも理雄のおかげだ。
この山道を乗り越えられたのも理雄の励ましがあったからこそ。
隣に居なくてもこんなにも理雄の存在を感じられる。
それがこんなにも心強いなんて。
自分のこの感情がなんなのか分からない。
それでも隣に理雄が居ない事が自分にとって辛いものだという事を改めて感じた。
風を前面に受けて一気に下る。
今この世界に自分ひとりなんじゃないかと勘違いするほど、車が通らない。
耳に入ってくるのは風の音だけった。
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