茜空

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湯船で足を伸ばす。 最後の日は贅沢しようぜ・・・ なんて言って温泉宿に泊まることにしていた。 そのために、4月半ばから二人でバイトも始めた。 理雄はレンタルビデオ屋。 俺は、ファミレス。 こんな事できるのは今年だけだな、なんて笑って話したっけ。 来年は受験に向けて、バイトなんてできるはずもないし。 理雄はどこの大学にいくつもりなんだろう。 そういや、そんな話今までしたこともなかったな。 漠然とした将来。 今は今が楽しけりゃいいと思ってるけれど、来年の今頃はそんな悠長な事を言ってられないだろうし。 理雄なら上の大学を目指せる。 今まで一緒に過ごしていた時間を別々に過ごすことになる。 兄貴は高校の時の友達とはほとんどつるむことがなくなったって言ってた。 サークルに入れば、そっちのやつらとばっかりだしな。なんて楽しそうに話してたのを思い出す。 理雄もそうなったんだろうか? 大学行ったら、俺の事忘れて楽しく過ごしたんだろうか? チャプンとお湯を掬って顔を洗う。 そういや、一緒に過ごすこと多かったのに風呂に入った事なかったな。 いやいやいや。 バシャバシャと乱暴にお湯を掬って顔にぶち当てる。 俺、今何考えた? よこしまな考えを拭うように、湯船から出て体を乱暴に洗った。 俺が好きってそういう事を考えるって事か? ふと過った考えを頭を振って消し去る。 理雄はそんなんじゃない。 頭を振りすぎてくらくらした。 冷静になれ。 シャワーを捻って、水を頭から被る。 「つめた!」 冷水をかぶってるから当たり前だが、それでも気持ちを落ち着かせるには十分だった。 「お湯どうでした?」 食事をするホールに向かうと、結構な人数が食事をとっていた。 仲居さんに声をかけられて『気持ちよかったです』と返した。 一人で食事とか寂しすぎる。 周りの家族連れや恋人らしき風景を見ながら、学校の昼飯のように急いで流し込んだ。
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