茜空

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「お世話になりました」 旅館の女将さんにお礼を言って、自転車にまたがる。 この数日間、何度この光景をやってきただろうか。 それも今日で終わり。 何の解決策もないまま終わるこの旅。 会いに行くべきなんだろうか。 俺が会いに行って、理雄は嫌な気分にならないだろうか。 そして・・・ 理雄は自殺しようとしたんだろうか。 もし、そうだと言われたら? その時、俺はどうするんだろうか? 容赦なく照りつける太陽を体全体に浴びて、水分が蒸発していってる気分になる。 水をこまめに取りながら、少しずつ確実に距離を縮めていく。 『昴はやる気が足りないんだよ』 『やる気はありありだろ』 『違うよ。 やる気をただアピールしてるだけで実際はこれっぽっちも出してない。 ちゃんとやれば出来るのにもったいないって見てる俺がイライラするよ』 『何言ってんだよ。 俺は、いつでも全開で』 『一度、なりふり構わずやってみたら? 恰好悪いとか誰も思わないからさ』 理雄はいつだって俺を見てくれてた。 意見をしてくれるのだって理雄だった。 友達と言うには、言葉が足りない存在。 いつの間に太陽は大きく傾いて、空全体が赤く染まってきたころ、目の前に大きな海が見えてきた。 空と海が同じ赤い色。 水面がキラキラと輝いて反射が眩しくて目が眩む。 涙が出そうな位綺麗な風景だった。 ああ、どうしてこの風景を理雄と見れないんだろう。 どうして今この瞬間隣に理雄が居ないんだろう。 立ち止まって沈んでいく夕日を見つめる。 我慢したかったのに涙が止まらなかった。 嗚咽を上げて泣いた。 どうして今この瞬間に理雄が居ないんだろう・・・
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