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病室の前で固まる。
中から楽しそうな声が漏れ聞こえ、どうしても中に入ることが出来ないでいた。
一昨日、帰ってきた俺は理雄の所に行くべきかどうか迷っていた。
何も言わなかった母親が痺れを切らして『さっさと行って来い』と家を追い出された。
何か持って行った方がいいのか分からず、結局手ぶらで病院に来たもののなかなか中に入れず、ウロウロと病院周辺を歩き回り、ようやく決心して中に入った。
病室は母親に聞いて来たから迷わずに来たけれど・・・
明らかに女の子と話してるだろう理雄の楽しそうな声。
意識なかったとは思えない位元気そうな声。
声が聴けて嬉しかったけれど、相手が俺じゃない事に何故か苛立ちを感じた。
俺が好きだって言ったくせに女子と楽しそうに話してる。
裏切り者・・・
いやいや裏切り者ってなんだよ、俺。
別に理雄が誰と喋ったっていいはずだ。
『好きな人が自分以外の人間と楽しそうにしてたら何喋ってんだろうって気にならないか?』
目の前でクラスメイトの笹尾が飯島と話してるの見ながら理雄がそんな事を言ったのを思い出す。
その時、理雄が笹島の事が気になってるのかと思った。
パシンと飯島の肩を叩いて笑う笹島を見つめる理雄。
『何?青春?』
『何が?』
『ん?笹島の事見てるからさ』
『笹島?ああ、なんかいっつも楽しそうだよね彼女』
なんて優しい表情をする理雄。
初めて見る表情に戸惑いを感じた。
自分が知らない間に親友は恋を知って大人になったような感じだったから。
『俺ならその中に入っていくかもなぁ』
『昴ならしそうだよね。空気読めないとか言われてそう』
『好きならガンガン行かないと相手に伝わんないだろ』
『昴らしい・・・俺には無理だな』
『顔のいい奴は何しても許されるぞ』
『何の話だよ』
フフなんて笑う理雄は女子にキャーキャー言われる顔だから笹島に『好きだ』って言えば、即オッケーもらえそうなのに。
イケメンにはイケメンなりの悩みがあるんだろうなぁ。
まぁ、それ相談されても俺、役には立たないだろうけど。
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