第1章 ななめまえ

3/4
前へ
/6ページ
次へ
凧場は凄く込み合っていて背の小さい私は空も見えなかった。 だが私はスーパーボールの店を見つけると猛ダッシュで走って行き、大声で父を呼んだ。 「パパーッ美紀、スーパーボールすくいしたいっ」 「・・・しょうがないな。翔君もやるか?」 翔は昔っから物静かな性格だった。 父の言葉にうなずき、私と翔は一緒にスーパーボールすくいをすることになった。 不器用な私は瞬殺ですくう紙を破き、スーパーボールを1つも取れなかったが、翔は器用で手際よくパッパとスーパーボールを入れ物に入れていく。 10個ぐらいすくって満足いったのか、手を止め私にその10個のスーパーボールを渡した。 「・・・?」 幼い私は理解できず、首を傾げるばかりだった。 「翔君美紀にくれるのか? 翔君は優しいな」 父は翔を褒め称えた。 私はそれで分かった。 翔は、私に優しくしてくれたのだと。 「・・・」 無言で渡した翔に向かって私は思いっきりの笑顔で 「ありがとっ」 と返した。 日差しの強い五月晴れの昼だった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加