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記憶も戻らない……、誰かに聞かないとわからない記憶なんて、もういい
記憶は記憶じゃなくて、――ただの夢……
これは、現実的な悪夢だ。
――夢?
激痛は、やってこない。
不思議に思って、恐る恐る瞳を開けると
「……!」
百合の振り上げられたまま止まっていた。
――え? なんで……
私の驚きは、百合の口から飛び出した。
「――なんでいるのよっ!」
「いいから、手を下ろせ」
百合の手は無理やり下ろされて、百合は掴む手を振り払う。
百合の手を掴んでいたのは
あの日、私に鋭い視線とドスの利いた声を浴びせた男。
「――なんなのよっ」
「……」
その人は、そっぽを向きながらボヤく百合の背中を、見つめていた。その瞳は切なげで、でも温かい眼差しにも見える。
――この人……。
「――帰るぞ」
「ちょっ、鋭太っ! やめてっ。この女だけは許さない」
腕を掴まれた百合は、抵抗しながら叫ぶ。
――私……、そんなに嫌われてるんだ。
昔も……っ、今も。
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