呪い

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ギシッ…ギ… 少女の足が教室の前で止まった。 右手側には開けっぱなしにされたドアの向こうで、両手で足る程の机がまるで竜巻が通っていった後のように無造作に散らばっている。この教室も、もはや学習環境と呼ぶにはほど遠いものだろう。唯一その名残を残しているのは黒板だけで、窓にカーテンはなく、窓ガラスもない。大雨は容赦なく教室に降り入り、風は少女の髪と服を乱暴に弄んでいく。 不気味な姿をした少女はその身を教室に促した。圧倒的な風を受けているにもかかわらず、歩む速度は相変わらずの一定で、乱れた机のうちの一つへ歩み寄っていく。少女が足を止めた先には、腹から血を流し、息も絶え絶えになり、雨ざらしの机にぐったりと身を預けている制服姿の女の姿があった。 この学校の生徒だろうか。目は虚ろで、かろうじて息をしているという様子だ。降り入る雨は女の体を濡らし、教室にできた水溜まりはまるで海のようで、女の体から流れる血が山から流れる清流のようにその海へと広がっていく。 か細い少女は目に宿した憎しみをその女に雨と共に降り注ぐ。口元はピクリとも動かず、ただ手に握る庖丁に力が込められた。 「な…なんで戻って…きたの…?」 女は息に言葉を乗せて囁くような声でいった。雨や風の音が強く、かき消されたも同然の声を少女は逃すことなく捕まえた。 「一度目は…苦痛と恐怖を知ってもらうためよ」 少女は腹を押さえた女を見据えながら少し高い声色で答えた。まるでかわいい顔をした人形が発したようだ。だが表情は氷のように冷たい。 「 大丈夫よ」 庖丁を両手で逆手に強く握る。 「二度目は生かさないわ」 少女が両手を頭上に振り上げようとした。突如辺りを覆った稲光が少女の持つ庖丁を輝かせた。 悪魔か何かだろうか。そう錯覚させるには十分すぎるぐらいだった。 「あなたたちが私にしてきた痛みを…今全部纏って立っているの。この服も、靴も、そしてこの心も。安心して?あなただけ殺すつもりはないわ。全員順番に…」 少女が言いかけた時だった。女は回りに溜まった雨水を掬い上げ、それを瞬時に少女の顔めがけて放った。少女の足元が少しよろめいた瞬間を女は逃さず、庖丁をおさえるようにしながら少女の腹部目掛けて飛びかかった。
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