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今日は頭痛のせいもあり、いつもよりも10分程度家を出る時間が遅れた。頭痛がして遅れることは別にどうということはない。ただ気になるのが、頭痛持ちではないことだ。勿論、風邪が原因で頭痛がすることはあるが、これはどこかその感覚とは違っていた。
突然の頭痛は悠祐に嫌な事を想起させる。まさか、あの噂が本当に存在しているというのだろうか。いやいや、と否定的に首を振りはしたものの、やはり、その事を考えると、家に一人でいるのは少し心細い。
悠祐は今両親とは離れて暮らしている。辺りは海や山に囲まれた、都会には程遠い大自然で、隣り合う家はない。
雨粒が貼り付く窓からは大きな海を見渡すことができるし、反対に位置する窓を開ければ岩肌が迫るような距離にまで近い。
こんな場所では中々仕事がなく、漁師になるか、都会へ生活を遷すかのどちらかなのだ。
そのため、悠祐は一週間に一度、両親から送られてくる簡便調理商品や缶詰などを、上手くアレンジして食べるという特技を身につけた。平たく言えば料理が少しできる、といった具合だ。
いってきます、と一言言い残し、戸に鍵をかける。相変わらず激しい雨がこの田舎町を濡らしている。
時間もない。傘を取ると、いつもより少し早歩きで、山頂方面に繋がる緩やかな勾配を登り始めた。
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