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気がつけば、もうすぐそこに校舎が見えてきた。木造三階建て、かろうじて校舎であると把握できる理由は、形上の校門があるからだろう。 本当にここは学校なんだろうか。悠祐は登校してくるたびに、そう考える。 ただ、来年の春、今の悠祐の学年が卒業すると、また、この学校もこの地を卒業することが決定している。過疎化が進み、生徒が入学してこなくなるのなら、という苦渋の決断だったんだろう。 そう考えると、どこか生き物の命の終焉を目の当たりにするような感じがして、悠祐は少し寂しくなった。 校門をくぐると、わずか数メートルしかない校庭の先の校舎で、身に付けていたレインコートをバサバサと、まとわりついていた雨粒を振り払っている少女の姿があった。 鞄のファスナーの先で、少女の動きに合わせて踊るミッキーマウスのキーホルダーを見て、少女が金子 静香であることがわかった。 この学校にはクラスは一つしかない。その人数も15人しかいないため、一人一人の顔や名前を覚えるのは容易であり、そして何よりも全員が全員と仲がいいので、都会で起こっているいじめなど、彼らには考えられない世界だった。 全ての学校を、この学校と同じようにしたらいいのに、と悠祐は考えたが、それではいくつ学校があっても足りないなと自嘲した。 「あ、悠祐。おはよう」 静香がこちらに気づいた。茶に染まった長い髪が雨風であちらこちらにはねている。悠祐に向けられた靨ができた笑顔が印象的で、優しそうで、そして全体的に少しふくよかなこともあってか、母性を感じる様から、渾名はマリアだ。 「今日、なんかすごい雨だよね。髪ぼさぼさになっちゃったよ」 マリアは細い眉をしかめて、鞄から取り出したコンパクトな鏡を見ながら、乱れた髪をとぎだした。レインコートは無造作にロッカーの上に放置されていた。 何よりも見た目に優先的に配慮するのは構わないが、埃にまみれたロッカーの上部の事を考えてみてほしい。
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