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それは夕暮れ、とある泉から始まった。
泉の周囲は雪に覆われ草木のない広い空間ができているが、そのほとりには巨大な一本の大樹が根をはり泉の上にまで枝葉を伸ばしていた。
現在の季節は冬であり生き物の姿はみえない。
凍らぬ泉と真っ白に覆われた大地を夕日の黄昏が照らす中、不意に泉が揺れた。
水の中から気泡が浮かび波紋となって水面を揺らすと、次は何者かの腕らしきものが水面から飛び出した。
水しぶきをあげて今度は真っ黒な頭が顔をだしてくる。
その人間のような男は苦しんでいるのか呼吸を荒げて岸へと目指した。
ようやく水底に足が届くようになると、今度は這いずる様に陸へとあがる。
凍りつくような寒さに体温で湯気があがり、濡れた身体を雪の地面にさらしてうずくまった人間は呟いた。
「クソがぁ.....あの鳥野郎が絶対に許さねぇぞ.....殺し.....て、ぐぅ」
息も絶え絶えに人間は罵る言葉を絞り出す。
よく観察すると泉から出てきた男は、全身が傷だらけであり何と争ったのか普通は死んでもおかしくない様子だった。
そして生々しい傷口からは、誰も見たことないであろう不気味なものが見え隠れしている。
それは蒼い生き物のようで無数のそれらが傷口から顔を出すと、黒い煙を吐いて、また傷口へと引っ込んでいった。
男はその蒼い生き物を見て言った。
「こいつらまで一緒なのかよ。ブギウギがぁ妙なもんが憑いちまったクソ気持ち悪いじゃねぇか」
そして自分の傷口から蒼い生き物、中でも蛇のような形をしたものを掴むと引きづり出してしまう。
妙な音をたてて引き出されたそれを、男は地面に叩きつけた。
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