からころむ(過去編)

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1、業火の中で ――――――――― ――1945年、東京。 寝静まったかに思えたこの都市に、危険を報せるけたたましいばかりのサイレンと、 B29の腹を揺らすような羽音が響き渡る。 『空襲警報!防空壕に入れ!』 町内会長のオヤジがメガホンをもって走り回り、 青年団が必死に消火を続ける。 しかし、それも所詮は多勢に無勢といったところで。 焼夷弾によって爆発的に燃え上がる木造家屋と、 1トン爆弾によって抉られる土地そのもの。 あるものは巻き上がる火の中で行き場を失い。 あるものは爆弾に当たり。 あるものはP51ムスタングの機銃掃射によって、次々と倒れた。 平然は既に失われ、 生と死は全く同じ割合になり。 身の安泰を保証するものなどどこにもなく。 僅かなる安全を求めて、人々は逃げ惑っていた。
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