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『あんた、私の弟にぃ、ならんかえ?』
終戦直後の東京駅のホーム。
落とし物を拾ってやった姉さんが、我に笑顔で言った。
『物を盗む子は、ここまでぎょーさん見たけんど、
あんたみたいに拾ってくれた子は初めてじゃわ。
今から、あしゃ北海道にいくけんど、
ついてくるかえ?』
一も二もない。
是も否もない。
我には頼るべき人も、頼るべき物も、何もない。
この姉さんには悪いが、我にとっては千載一遇のチャンスとしか思えなかった。
コクりと我が頷くと、その姉さんはにっこりと笑って、
『ほいたら、行くかえ。』
と言って、我の手を引いて列車に乗り込んだ。
助かった、と思った。
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