からころむ(過去編)

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――――――――――― 『―――だから! あの子はあしの弟なんじゃて!』 隣の部屋、下宿先になるであろう親戚の義母に向かって、姉さんは怒鳴っていた。 『あの子は性根がしっかりしとる子じゃけぇ! 絶対にこの家に迷惑かけたりはせんがよ!』 こちらについて約二時間。 一人で来るはずだった親戚の子が、 どこの誰とも知らない我を連れてきたのを玄関で見た義母とおぼしき女性は、 明らかに顔をひきつらせていた。 ―――食いぶちが減る。 顔にそう書いてあった。 「うちは………一人分しか物を用意してないよ。 あの子の布団もないし、服もない――――」 『二人で分けるけぇ!』 「――それに………部屋だって狭いし………」 『あしぁ別に構わんがよ!』 「…………食べ物だって、うちにはもう少ないのよ………」 『問題はどうせ全部そこじゃろ!? あしがいっぱい働いてあの子の分まで食いぶち稼ぐけえ――――』 「いい加減にしなさいよ!? ――うちはね、あんた一人だっていっぱいいっぱいなのよ! その上に孤児を引き取るですって!? 許さない、絶対許さないわよ、そんなこと! もしどうしてもって言うなら、 そうよ!あんたが出ていきなさい! そうすればあの子はここに置いておいてあげるわ―――――」 『!』 我は、思った。 ―――去らねば、ここを。 我のためにあの姉さんが出ていくようなことがあってはならない。 そうだ。 我が死ねば。 この家からあの姉さんが出なければならなくなることなど、必然的にこれっぽっちもなくなる。 元々―――あの芋けんぴがなければ、とっくになかったこの命。 あれだけ我に優しくしてくれた姉さんのために捨てるなら、本望。 我は、姉の泣き叫ぶ声を聞きながら、 その家を出、ふらふらとどこへなりと消えていった。
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