3人が本棚に入れています
本棚に追加
ただのパンチ。
のはずだった。
学校には多くの人が避難をしていた。小さな子供の泣き声が聞こえてくる。
人々は学校から見る町の風景を呆然とみていた。
さっきまで、普通だった町が今では破壊され、怪物によって蹂躙されて、メチャクチャであった。
子供以外でも、すすり泣く声がいたるところで聞こえてくる。
廊下をあるけば、神に祈りだす人も多かった。
宏明は、そんな人々の中を縫うように歩き、3階にいる陽子のもとへ向かった。
陽子は町が良く見える窓から、外の様子をみていた。
その表情は、憂いをおびている。
「陽子」
宏明が声をかけると、陽子は、その表情を笑顔にかえた。
だが、その引きつったような笑顔に宏明は胸が引き裂かれるような悲しみに襲われた。
さっきも、町の様子をみていたのではなく、おそらく、町に残してきた人物に思いを馳せていたのだろう。
「宏明、なんでここに?」
「陽子がここにいるって聞いてさ。とりあえず、避難誘導も、ひと段落ついたから。」
「織斗は…?いた?」
陽子は顔を伏せた。
泣くのを我慢しているようだった。
わかっているのだ。
陽子や宏明よりあとに来た人々はほとんど走って来た人達だったが、多くはなかった。
おそらく、間に合わなかったのだろう。
宏明は、海岸沿いの人間の多くと、との連絡が取れないというのも聞いていたし、おそらく死んだというのも、薄々分かってはいた。
陽子も見ているはずだった。
2人の後ろで火に巻き込まれながら、絶命していく人達を。
その恐怖を後ろに感じながら、逃げてきたのだ。
もし、織斗がいたら間に合わなかったのだろう。
ただ、織斗を置いてきたことによって2人とも、恐怖以上の罪悪感に襲われた。
「織斗は、いなかった。
でも多分あいつは生きてるよ」
そんなはずはないのに、
だか、宏明はその自分が言った言葉を信じるしかなかった。
陽子が、宏明のシャツをぎゅっと掴んだ。
「嘘つき。」
陽子の顔は伏せられていて、宏明には見えない。
だが、どんな顔をしているのかは、わかるような気がしがした。
宏明は、陽子を抱き寄せた。
陽子の肩が震えている。肩に熱いものが染み込むのを感じた。
宏明はかける言葉が見つからない。
そして、嗚咽をあげる陽子の頭を優しく撫でた。
窓の外を見ると、怪物が、町を燃やしながら、進んできているのがみえた。
最初のコメントを投稿しよう!