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「・・・なぁ!」
「わぁっ!」
いきなり耳元で呼び掛けられ、思わず声を上げてしまった。
ついでに手も上げてしまった。
大声で呼び掛けた変質者は「あぶねぇっ」と叫びつつ飛び退いて、変質者のくせに避けやがった。
「だからすぐ殴るなよ!」
「・・・なに?」
非難はとりあえず無視して、俺は変質者に目を向けた。
子犬の目が、若干涙目なのは気のせい。
「いや、だから。名前なんつうの?ってさっきから聞いてるんだけど。俺は井上 拓。拓でいいぜ。ネクタイ青ってことは、お前も一年だろ?」
「ああ。俺は津山 啓。啓様でいいよ変質者」
「あ?なんで変質者だよ!てか何で様!?」
「あぁ、本音がダダ漏れた。すまんすまん。啓でいいよ」
「本音ダダ漏れって尚悪いわ!」
ギャーギャーうるさい変質・・・拓を笑い飛ばしながら歩いていると、体育館へいつの間にか到着していた。
時計を見ると、8時25分。
結構やばかった。
「拓、時間やばい。急ぐぞ」
拓に言うと、時間を確認したのか焦った顔で走り出した。
後に続いて走りながら思い出したのは、冷たい瞳。
峰岸先輩か・・・
あまりちゃんと顔見えなかったなぁ。
気になるのは、きっと旭兄ちゃんと雰囲気が似てたせい。
いや、小学校のころだし、あんな怖そうじゃなかったし、優しかったし、元気で明るい人で、今朝会ったあの人とは全然違うんだけど・・・
でも、何故か似てると思ってしまった。
名字が違うし、全然関係ない人かもだけど。
親戚とかだったらいいな。
とか思いながら。
まぁ、なかなか話せないんだろうけど、機会があったら聞いてみたいな。
なんて、少し期待しつつ体育館の席に滑り込んだと同時に、入学式の開始のスピーチがスピーカーから流れ出した。
とりあえず・・・
セーフ。
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