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祖父が亡くなった。九十四歳の大往生である。眠るように死んでいった。
安らかな最期であった。
ひと月ほどがすぎて、やっと身辺が落ち着いた頃、両親を手伝って遺品を整理することになった。
机の中に入っていた各種カードを整理していて見つけたのが、そのスタンプカードだった。どこにでもありそうな、ただのカードだったが、あと少しで二十個のマス目がすべて埋まりそうだった。店はラーメン屋で、祖父はそんなにもラーメンが好きだったのだろうかと首をかしげた。
全部埋まったら、何か景品でももらえるのだろうか。そんなことをチラリと思ったりしたが、わざわざ出かけていってスタンプをもらおうなどという気持ちにはならなかった。
何かのついでがあれば、とも思ったが、どことも知れないその店の前を通り過ぎることがあるとは予想していなかった。だから偶然、駅の裏側でその店に出くわしたときは、「よし、入ってみよう!」とうれしくなってしまった。
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