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ざわざわと。 コップと皿の鳴る音。 なんのリズムも刻んでいないようで、ノイズとは言い切れない、音。 絶え間なく空気を震わせる、笑い声、大きな声。 私に絶体音感なんてものが備わっていたら、多分、うるさくてたまらないと思う。 「…ちゃんと…誰かに送ってもらいなね~」 雪音ちゃんは、愛らしいのだから。 そう呟けたかどうかは解らないけれど、まだ帰らない事を、そう伝えた。 だって立てる気がしない。 油の匂い。鶏を揚げる匂い。 魚を焼く匂い、貝を蒸す匂い。 煙草と、酒の匂い。 「はい。じゃあ蜜さん、またメールしますね」 「うん~、とりあえず無事に帰宅したらメールしてね~」 「……ちょっと蜜さん、ほんとに大丈夫ですか?」 困ったように、柔らかく笑う雪音ちゃんの声が、だんだん遠のく。 居酒屋の畳の上で私は、酒に呑まれてゆらゆらと。 ご満悦だ。
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