第1霊:あぁ、儚き蝉時雨

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カリカリカリ……と、無機質で不規則な音がクーラーがよくきいた素晴らしいほどに冷涼な部屋に鳴り渡る。 音の正体は様々な数字が式にのっとって配列されているプリントに、公式を当てはめて途中計算を書き記している僕のシャープペンシルだ。 いや、この場合はシャープペンシルの芯が悪いのだろうか?でも芯だけではこんなに軽快な音はならないものだから、やっぱりシャープペンシルのせいだろう。 とにもかくにも現状を分かりやすく、それでいて簡潔に答えるならば、僕…菅原 邦弥は只今絶賛夏休みの課題にいたって真面目に取り組んでいた。 といっても、別に夏休みがもう少しで終わるから焦ってやっているとかではない。 時刻は公立学校である正栄高校(しょうえいこうこう)に入ってから初めての夏休み3日目に突入した昼間。 僕は今までの小学・中学の経験を生かして、長期休暇の課題は即刻終わらせるに限るといった結論にいたったのが、そもそもの原因だった。 高校の課題というものは思っていたより量が多く、入学した生徒のレベルに見合わない難易度のものばかりだった。 正栄高校はランク的にはD程度の成績の人間が集まって成り立っている学校だ。が、しかしそこに勤める教師は不幸なことに高学歴ばかりで、何事も生徒に課されるレベルが無駄に高い(正栄高校生徒700人中682名が証言)で有名だった。
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