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とりとめのない話をしながらカクテルを2杯、3杯と進める内に、私はこの空間に居心地の良さを感じ始めていた。
それは人見知りな自分にとっては驚くべきことで。
ちらりと高藤さんを見ると、高藤さんはそれに気が付きゆったりと笑った。
高藤さんは多分お酒がとても強いと思う。さっきからウィスキーのロックを飲み続けているが、見た目も態度も何も変わらない。むしろお酒に弱い私は若干酔い始めている様な気がする。
少し飲むスピード抑えなきゃと思っていると、高藤さんが少し遠慮がちに口を開いた。
「美夏さん。」
「はい?」
「美夏さんはいつもこんなに夜遅くまで働いているのかい?」
その言葉に、タクシー乗り場で感じた胸の痛みが蘇ってくる。
でもこの居心地良い雰囲気を壊したくなくて、努めて明るく返事をする。
「ええ、半年前から大きなプロジェクトの一員で、毎日忙しいんです。」
「夜帰れない位?」
「そうなんです。毎日遅くて・・・。これじゃあプライベートも持てません。」
笑い飛ばす様に言うと、高藤さんがその漆黒の目でじっと私を見つめた。
その瞳を避ける様に私は言葉を続ける。
「とても大きなプロジェクトで、毎日充実しています。」
「その分忙しいけれど、楽しいんですよ?」
「確かに体は辛いけど・・・、とても自分が必要とされているのを感じます。だからやる気満々なんです。」
しゃべることを止めたら、何かが壊れる様な気がして、私は無理やり話し続けた。楽しげに。
そんな私を高藤さんがじっと見つめる。
そして小さくため息を付いた。
「美夏」
初めて「さん」なしで呼ばれて、びくりと体が震える。
「私の横で無理する必要はないんだよ?」
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