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その言葉に思わず高藤さんの方に顔を向けると、高藤さんはとても優しく笑った。
そしてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「美夏の仕事の全てを知っている訳ではないけれどね、こんなに夜遅くまで女の子が働くのは、とても大変なことだ。」
「目の前の仕事のことに追われると、周りも自分自身も見えなくなりがちだけれど」
「もっと自分を大事にしてあげなさい。」
いつもの私だったら『私の何が分かるっていうんですか!!?』と逆切れしていたかもしれない。
でも今夜は・・・高藤さんの言葉がすっと胸に染み渡った。
思い出す、独りっきりのオフィス、深夜の自宅、何もない土日。
そう、本当は気が付いていた、寂しい自分の気持ち。
気が付いていて、その寂しい気持ちを大事にしてあげなかった。
数時間前は止めることができた涙があふれる。
その涙を高藤さんの長い指がすくった。
高藤さんの優しい目が私に『心の内を話してごらん』と促す様だった。
「・・・わたし。」
「うん?」
「本当は無理してた・・・。」
「そうだね。」
「でも上司やプロジェクトの皆を裏切れなくて・・・・。」
涙が次々のあふれて、こぼれる。
「私が頑張らないと・・・いけないって思ったの。」
「うん。」
「だって、みんなとても大変なんだもの。私だけ・・・帰りたいとか・・体がきついとか言っちゃいけない気がして。」
高藤さんはそっと私の頭をなでてくれた。
「それに私だけ独身だし・・・」
「ん?」
「他のみんなには家庭があるの。だから何となく、やらなきゃいけないと思って・・・」
私の言葉に高藤さんが苦笑した。
優しい漆黒の目がじっと私の目を覗き込む。
「美夏の責任感の強さはとても素敵なことだと思うよ。」
「だけど、少し頑張りすぎたみたいだね。」
その低い、心地よい声のせいか。
それともその漆黒の目のせいか。
・・・分からない。
でも、私はひさしぶりに、本当にひさしぶりに、人にすがって泣いた。
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