2/2
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
   燦然(さんぜん)と直射日光が、彼を照らす。  暑苦しい──と彼は汗を拭うが、その合間からまた汗が溢れ出る。  彼は室内にいるのだが、この部屋にはクーラーも扇風機もない。そのせいか、室内も室外もあまり変わりはなかった。    今年の夏は、猛暑だった。  今思い返せば、それはただの日常の夏であったはずなのだ。    青々と茂った草木や、田んぼの稲。  子供達が水辺ではしゃぐ声や、子供達のためにかき氷を削る音色。    そう、それらは全て彼にとっての日常の夏だったんだ。      やかましい蝉の声に、干上がった蛙の死骸。      それさえも、彼にとっての日常の夏だったはずだ。     ――なら、これは何だ?    ムシムシとした暑さに音を上げて、彼は再び汗を拭う。サウナの中にいるかのように、喉が渇く。    ごくり──と大きな音を立てて喉を鳴らして、足元の塊を見る。    数時間前までは、人間であった塊――を、だ。熱さにやられて虚ろな目で、彼はソレを見つめたまま思う。    あぁ、これも日常の夏だったなぁ、と。      狂おしい夏が過ぎ去り、秋が訪れ、冬が訪れ、やわらかい春が来たる頃には忘れているのだろう。    異常なまでに狂乱してしまうほどの夏の暑さなど。  
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!