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  「よう、起きたのか」 突然声を掛けられ、香澄は我に返る。 目の前に、ボサボサの髪をした小汚い少年が馬の手綱を握り、屈託無い笑みを香澄に向けていた。 辺りを見渡すと、すっかり暗くなった森の景色が、頬を撫でる冷風に乗ってかなりの速さで通り過ぎていく。 「あれ……?」 いつの間に馬に乗せられたのだろう。香澄はそう思った。 山に入ってからずっと熟睡できることなんてなかったからか、寝る前に自分が何をしていたのか、すぐには浮かんで来なかった。 「あんなとこでいきなり寝ちまうんだもんな。お前、変なヤツだよな」 少年の言葉に香澄は首を捻る。 「でもさ、あんなとこで寝てたら夜蟲に喰われちまうぞ」 その時、香澄はようやく気付いた。少年が握っているのは手綱ではなく、自分達が乗っているのは、あの巨大なチャバネムシの背中だということを。 気を失う前の記憶が雪崩のように押し寄せて来る。あの触角の感触が蘇り、身の毛がよだつ。 葉脈に似た節が張り巡らされている濃い茶色の羽が尻の下に敷かれているのが見え、香澄は喉が張り裂けそうなほど大声で叫んだ。 「きゃああああああ--!!」 静寂に包まれた森の闇の中に香澄の叫び声が吸い込まれていく。少年が顔を強張らせた。  
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